序章:夢と金のバランスは歯科技工士にも必要だ
キングコング西野亮廣の著書『夢と金』は、一見するとエンタメ業界やクリエイターのための指南書に見える。しかし実は、歯科技工業界にも深く刺さるテーマを扱っている。
それは「夢(やりがい・理念)」と「金(持続可能性・収益)」を両輪で回さなければ、どんなに立派な仕事も続かないというシンプルな真理だ。
歯科技工士は「患者の噛む喜びを支える」という崇高な夢を持ちつつ、現実には低単価・長時間労働・人材不足に苦しんでいる。夢は立派なのに金がついてこない。まさに西野が語る「夢と金のアンバランス」に直面しているのだ。
技工士の「夢」だけでは食えない現実
歯科技工士の多くは、歯科医院や患者に直接「ありがとう」と言われる機会が少ない。裏方仕事でありながらも精密さが命。クラウンや義歯を一つ作るたびに「これで誰かが笑顔を取り戻せる」と胸に誇りを抱いている。
しかしその「夢」だけでは食えないのが現状だ。
保険制度に縛られた低い技工料
歯科医院からのコストダウン要求
デジタル技工への投資負担
これらが重なり、技工所の廃業は後を絶たない。まさに「夢はあるけど、金がない」という典型的な構造である。
西野式「お金の見せ方」を技工業界に応用する
『夢と金』で西野が強調するのは、「お金は夢を叶えるための燃料」という考え方だ。つまり、金儲けを忌避するのではなく、堂々と「必要なお金をどう集めるか」を設計しなければならない。
これを歯科技工に応用すると、以下の発想が見えてくる。
価格の可視化とストーリー化
技工士の仕事の価値を「単なる金属やセラミック」ではなく、「患者の人生を変えるプロダクト」として伝える。西野が美術館を「体験型」にしたように、技工も「ストーリー」で売る時代が来ている。
サブスク・会員制の導入
西野は「オンラインサロン」で収益のベースを作った。技工所も「歯科医院との定額契約」や「メンテナンス込みのサブスクモデル」にシフトできる。毎月安定したキャッシュフローがあれば、夢を追う余裕が生まれる。
クラウドファンディングの活用
「新しいデジタル技工所を作る」「高齢者向けの訪問技工サービスを始める」といった挑戦を、クラファンで発信することも可能だ。社会課題を解決する技工なら支援者は必ず現れる。
「信用残高」を積み上げる技工士になる
西野がよく口にするのが「信用残高」という言葉だ。お金以上に、信用を積み上げることが長期的なリターンにつながる。
歯科技工士にとっての信用とは何か?
納期を守ること
品質を安定させること
歯科医師に“相談したくなる存在”になること
これらの積み重ねは、やがて「この人に任せたい」という信用に変わる。信用は紹介や指名につながり、結局は「金」に換算される。つまり信用こそ最大の投資であり、夢を支える燃料なのだ。
「夢を語れる技工士」が生き残る
今後、AIや3Dプリンターの台頭で技工の一部は自動化されていく。単純作業は確実に淘汰される。そのとき生き残るのは「夢を語れる技工士」である。
「患者さんがステーキを美味しく食べられるように作りたい」
「高齢者の生活の質を最後まで支えたい」
「子どもの矯正をもっと楽にしてあげたい」
こうした“夢の物語”を語れる技工士は、歯科医院や患者から選ばれる存在になる。夢は決して精神論ではない。差別化の武器であり、金を呼び込むためのマーケティング資産なのだ。
結論:夢と金をつなげる設計図を描け
『夢と金』が教えてくれるのは、「夢を語るだけでは自己満足、金だけを追えば空虚」という冷徹な真実だ。歯科技工士こそ、この言葉を噛みしめるべきだろう。
夢と金をつなぐ設計図を描けば、業界の未来はまだ明るい。
サブスクやクラファンで金を回す
信用残高を積み上げて仕事を得る
夢をストーリーとして発信する
この3つを実践することで、歯科技工士は「夢を食いつぶす仕事」から「夢を叶える仕事」へと進化できる。
西野が言うように――「夢には金がいる」。
その真理を受け入れたとき、歯科技工業界の未来図はようやく描き直されるのだ。