歯科技工士は、歯科医院から依頼を受けて補綴物や義歯を製作する専門職です。患者に提供する補綴物の精度を高めるには、歯科医師と技工士の連携が欠かせません。
しかし実際の現場では「正直これは困るな…」と感じる歯科医師の態度に直面することもあります。もちろん、全ての歯科医師に当てはまるわけではなく、誠実で協力的な先生も多いのですが、歯科技工士の間で共通する“困りごと”があるのも事実です。
ここでは、「歯科技工士が困る歯科医師の態度10選」を具体的な事例とともに紹介し、さらに関係を改善する方法についても解説します。現役技工士の方は共感し、歯科医師の方は「なるほど」と気づきを得られる内容にしています。
歯科技工士が困る歯科医師の態度10選
1. 指示が曖昧すぎる
「自然にして」「患者さんに合う感じで」といった漠然とした指示は、技工士にとって最も困るもの。例えば前歯の補綴では「どの程度の透過感を出すのか」「隣在歯とのシェードはどう合わせるのか」といった情報がなければ仕上がりにばらつきが出てしまいます。
改善ポイント
- 技工指示書に具体的な情報を記入
- シェード写真や咬合状態を添付
- 「患者の希望」も一言でいいから共有する
2. 技工指示書をほとんど書かない
本来、法律で義務づけられている技工指示書。ところが「電話だけで済ませる」「名前と日付だけ」といった簡略化ケースも少なくありません。これでは責任の所在が不明確になり、トラブル時に技工士が矢面に立たされることも。
改善ポイント
- 法令遵守の観点からも指示書は必須
- 書式をシンプルにする工夫で記入を習慣化
- デジタル化(PDFやオンライン入力)も有効
3. 無理な納期設定
「明日の午前中に」「今日中にお願い」といった無茶な納期。急患対応はやむを得ないとしても、常態化すれば技工士の生活リズムを壊し、精度にも影響します。
改善ポイント
- 通常案件は余裕を持った納期設定を
- 緊急案件は「理由」と「優先度」を伝える
- 技工所側も「対応可能/不可能」を明確に答える
4. 技工物を患者の前で強く批判
「色が全然違う」「全然合ってないじゃない」と患者の前で言われると、技工士としては立つ瀬がありません。原因が印象不良にあったとしても、技工士だけが悪者にされるのは理不尽です。
改善ポイント
- 批判は裏で共有し、患者には前向きな説明を
- 「次回改善します」とセットで伝える
- 技工士へのフィードバックは建設的に
5. 技工料金を軽んじる
「もっと安くならない?」「これでこの値段?」と簡単に言われると、材料費や時間を軽視された気持ちになります。特に自費補綴での値下げ要求は、技工士のやる気を削ぎます。
改善ポイント
- コスト削減は「技工料」ではなく「工程効率」で
- 適正料金を支払うことが結果的に医院の信頼につながる
- 技工所も料金設定の根拠を明確に伝える
6. 技工士を下請け扱いする
「作って当然」「直せばいいだろ」といった態度は、技工士を単なる外注業者のように扱うもの。技工士はあくまで医療チームの一員であり、専門家として尊重されたいという思いがあります。
改善ポイント
- 「一緒に作り上げる」という意識を持つ
- 技工士を勉強会や症例検討会に参加させる
- 患者への説明に「技工士の協力」を盛り込む
7. 工程や技術への理解不足
「すぐできるんでしょ?」という軽い一言。実際には、ワックスアップ→埋没→鋳造→研磨→適合調整…といくつもの工程を経ています。理解不足は無理な要求につながりやすいです。
改善ポイント
- 歯科医師が技工所を見学する
- 技工士が医院に出向き実演する機会を持つ
- 「この工程にどのくらいかかるのか」を共有する
8. 患者情報を共有しない
印象だけ渡されて「後は任せた」となると、生活習慣や審美的希望が反映されません。例えば「営業職なので自然な白さが欲しい」といった背景があるかないかで仕上がりは大きく変わります。
改善ポイント
- 写真・動画・症例メモをセットで渡す
- 患者の希望を一言でも伝える
- 技工士も必要な情報を積極的に質問する
9. トラブル時に全て技工士のせいにする
適合不良が印象採得に起因していても、「技工が悪い」とされるケースは珍しくありません。責任の押し付け合いは信頼関係を壊します。
改善ポイント
- トラブル時は「原因分析」を一緒に行う
- 印象材や咬合採得の問題を共有
- 技工士も「改善提案」で前向きに関与
10. 感謝やフィードバックが全くない
「ありがとう」「助かった」の一言があるだけでモチベーションは大きく違います。無言で返却されたり、改善点の共有すらないと「使い捨てのように扱われている」と感じる技工士もいます。
改善ポイント
- 良かった点も一緒に伝える
- 定期的に「フィードバックタイム」を設ける
- お互いの努力を言葉にして認め合う
エピソード事例:現場で実際にあった困りごと
- ケース1:色合わせの失敗
指示が「白めで自然に」だけだったため、技工士が一般的なA2シェードで仕上げたが、患者はもっと明るい歯を希望していた。→ 写真添付を習慣化することで改善。 - ケース2:急ぎすぎた納期
「午前中に欲しい」と頼まれ、夜通し作業した結果、適合が甘く再製作に。→ 結局医院側も二度手間になった。 - ケース3:責任転嫁
印象が変形していたにもかかわらず「技工が合ってない」と患者に説明。→ 後日、他院で再印象したら適合したため原因が判明。
歯科技工士と歯科医師の関係を改善するために
双方向コミュニケーションを強化
- チャットや専用アプリを活用し、リアルタイムで相談できる体制を作る
- 写真・動画の共有で「言葉では曖昧」な部分を補う
定期的な勉強会や情報共有
- 新しい材料や技術を一緒に学ぶ
- お互いの視点から症例を検討し合うことで理解が深まる
感謝の言葉と尊重の態度
- 医師から「技工士さんのおかげで助かってます」と一言あるだけで信頼が増す
- 技工士も「先生の印象が正確で助かりました」と返すことで良好な関係に
まとめ:パートナーとしての信頼関係が患者を笑顔にする
歯科技工士が困る歯科医師の態度は、「曖昧な指示」「無理な納期」「一方的な批判」などさまざまですが、その多くは忙しさや認識の違いから生じているものです。
大切なのは、互いの専門性を尊重し、小さな配慮と双方向のコミュニケーションを積み重ねること。そうすることで、歯科技工物の精度は向上し、最終的には患者の満足度につながります。
歯科医師と歯科技工士は、患者の笑顔を一緒に作るパートナー。困る態度を減らし、信頼関係を深めることが、これからの歯科医療に求められています。