もし明日から、「クラウン」「ブリッジ」「入れ歯」などの歯科補綴が保険から外れたらどうなるのか。
誰が得をして、誰が損をするのか。
その構造を整理してみます。
🦷 保険から外れるということ
日本では、ほとんどの歯科治療が健康保険の対象です。
特に補綴(ほてつ)は、咀嚼機能の回復という「生活の質」に直結する分野。
それがもし保険から外れ、全額自己負担になったら――
国民生活、医療業界、そして歯科技工士業界まで、波紋は避けられません。
💰 得をするのは誰か(短期的な勝者)
① 自費診療に強い歯科医院
すでにインプラントやセラミック治療を中心にしている歯科医院は、
むしろ追い風になります。
保険がなくなれば、**「自費が当たり前」**の空気になり、
高額治療でも患者の抵抗感が減ります。
競合も減るため、単価は上がり、経営は安定。
都心部や富裕層エリアの医院は、特に利益が増えるでしょう。
② デジタル機材メーカー・材料メーカー
CAD/CAM、3Dプリンター、ジルコニア、チタンなどの高額機材・材料メーカーも得をします。
保険の縛りがなくなれば、高価格帯の材料を自由に使えるようになり、
機器更新や材料販売の市場が一気に拡大。
まさに「デジタル補綴バブル」です。
③ 経営センスのある歯科技工所
保険の低単価から解放され、自分で価格を設定できる時代が来ます。
「1歯3,000円」ではなく「デザイン重視で2万円」にできる。
SNSでブランディングして、歯科医院を経由せずに患者に直接届ける――
そんなビジネスモデルも可能になります。
営業力や発信力のある技工士にとってはチャンスです。
🏦 中長期的に得をするのは誰か
① 政府(国の保険財政)
最も大きな「得」をするのは国です。
高齢化によって医療費は増え続けていますが、
補綴治療が保険から外れれば、莫大な医療費削減になります。
つまり、財政的には国が一番助かる。
② 民間保険会社
次に得をするのは、民間の歯科保険業界。
「年1回のクリーニング無料」「補綴治療半額」といったプランを売り出せば、
新しい市場が一気に生まれます。
海外ではすでに主流で、日本もその流れになる可能性が高いです。
💎 実は得をするかもしれない層
● 富裕層・美意識の高い層
お金に余裕のある層は、「保険がなくなる=制約がなくなる」と感じます。
見た目、機能、材質を自由に選べるため、むしろ満足度は上がります。
「安さ」ではなく「美しさと精度」を求める人にとってはプラスです。
● 海外の歯科関連企業
日本の市場が自費化すれば、海外製CAD/CAMや補綴素材が大量に流入します。
輸入業者や海外メーカーも大きな利益を得るでしょう。
⚠️ 一方で、損をするのは誰か
層 |損失内容
------------------|-----------------------------------
地方の保険中心医院|患者減少・経営悪化・廃業リスク
小規模技工所 |自費対応できず淘汰される可能性
高齢者・低所得者 |負担増で治療を諦める人が増加
国民全体 |医療格差が広がり、健康寿命が縮むリスク
「お金がある人だけが噛める時代」が訪れるかもしれません。
🔍 まとめ
視点 |得をする側 |理由
------------|----------------------------------|------------------------------
経済 |政府・民間保険会社 |医療費削減、新市場の創出
医療 |自費診療型の歯科医院・技工所|単価上昇と自由度拡大
産業 |機材・材料メーカー |高価格帯市場への移行
一般 |富裕層 |品質・選択肢の拡大
🎯 結論:得をするのは「上」、損をするのは「下」
歯科補綴が保険から外れたとき、
得をするのは「国・企業・富裕層」。
損をするのは「庶民・地方・現場の技工士」。
つまり、格差がそのまま医療格差に直結する構図です。
「自由診療化」は美しい響きに聞こえますが、
その裏で“口を開けたまま治せない人”が増えていく――
それがこの制度変更の本質かもしれません。